前回は、継ぎ矢とはどのようなことかについて書きました。
今回は、弓道に必要な基礎基本である、基本の姿勢と基本の動作について書いてみます。
この記事を読むことで、無指定・初段の筆記審査のA群で出題されている問題にも楽々回答できるようになります。
後々確実にレベルアップするためにも、本当の基本を身につけておきましょう。
基本体について
例え話を一つします。
最近はすっかり「毛筆」で文字を書くことがなくなってしまいましたが、書道に触れたことがある人なら、最初に習う「書体」はご存じですね。
答えは「楷書」です。
活字でいえば、明朝体などがこれにあたります。
では、次に習う「書体」も分かりますね。
はい、その通り「行書」です。
そして、その後「草書」へと進みます。
では、楷書も行書も習っていない者が、いきなり草書を上手に書くことができるでしょうか。
まず、無理な話ですよね。
このことと同じで、弓道の上達には、書の基本である「楷書」にあたる、基本体をしっかりと身につけておく必要があるのです。
弓道をはじめた初心者が、少し的に中るようになったころ最初にはまる罠は、自分より上の段級の人を見て「なんだ簡単じゃん、もう自分とたいして変わらないでしょ」と高をくくることです。
そうなると、指導者の話しを聞く謙虚な気持ちが減り、悪癖を自ら身につけるようになります。初心者の時に付けた悪癖は、そう簡単に治るものではありませんから気をつけてください。
上達の速度は人それぞれ違えども、基礎基本を身につけておくことはとても重要だということです。
悪癖を知らず知らず身につけたりしないように、基本体はこれでもかというくらい、しっかりと学びましょう。
その基本体は、「基本の姿勢」と「基本の動作」とに分かれています。
基本の姿勢
基本の姿勢は、さらに以下の4つに分けられます。
1.立った姿勢
弓道では、自然に立った姿勢が基本姿勢の一つになります。
両足底は、平行に男子は3cmほど開け、女子はつま先からかかとまでをつけます。
背筋をまっすぐ伸ばし、あごを引き、頭のてっぺんから紐で吊された意識で立ちます。
この「吊された」という表現を理解するには、力を抜いて立ち、背筋をゆっくり伸ばしてみてください。すると頭の位置が少し上にいく感じを得られると思います。このときの姿勢を力みなく自然に作れるようにしましょう。
この感覚は、胴作りから離れまで、弓道における「縦線」を構成するために必要不可欠です。
なお、視線は目の力を抜き鼻頭を通じて(以下同様)4m先に向けます。
2.腰掛けた姿勢
腰掛ける場面は、射場内だと大会などで次の立ちで本座で待つときなどが考えられます。
深く腰掛けず、上体は立った姿勢と同じで、肩の力を抜きつつ脇を少し開け、力まずに肘を外側にやや向けて両手は太ももの上に指を軽く伸ばして置きます。視線は(省略)3m先に向けます。
3.すわった姿勢(正坐)
上体は、立った姿勢と同じです。男子は膝の間にこぶし1つ分をあけ、女子は閉じます。両足の拇指(親指)は、重ねるか平行にしてください。足の甲で重ねないようにしましょう。
視線は2m先に向けます。
4.爪立って腰を下ろした姿勢(跪坐・蹲踞)
おそらく、この姿勢である跪坐(きざ)がもっとも初心者を苦しめるものだと推測します。
爪立って座った時、モノを持たない場合は、両膝を床に付けてもいいのですが、弓と矢を持った時には、主となる弓を持った側の膝を生(い)かす必要が(文字にすると膝と床に若干の隙間を作った状態)あります。
膝を生かす時に、隙間だけ作って上体はそのまま、または、隙間を作った時だけ上に伸びて、作り終えたら上体が再び沈む人が非常に多いのが初心者(だけに限りません)の跪坐です。
確かに苦しい姿勢ではあるのですが、
しっかり意識すれば、かかとが離れているときよりも楽になるはずです。
実技審査の坐射では、必須になるので痛いからと敬遠して練習を怠ることがないようにしましょう。
無指定・初段の行射では、矢が的に中ることは絶対条件ではありません。
しっかりとした体配(入場~退場)と射法八節が正しくできることこそが、重要になります。
蹲踞は、矢渡しなどで第二介添えを行う場面で必要になります。しばし、その役目は回ってこないかもしれませんが、爪立ったまま膝を床につけず、ふらつかないために両膝を男女ともこぶし2つ程度開けてバランスよくしゃがみます。背筋は伸ばしたままで、上体が丸くならないように注意が必要です。
いずれの場合も、視線は2m先に向けます。
筆記審査では、以上4つの姿勢とそのポイント(視線は必ず)を自分の言葉で箇条書きにできればOKです。
基本の動作
基本の動作は、少し数が多く、以下の8つに分けられます。
1.立ち方
正坐や跪坐の姿勢から立ち上がる動作は、坐射の時に必要となります。
リラックスした状態から、息を吸いながら腰を伸ばしつつ膝立ちの姿勢をつくります(腰を切る)。伸びたところで息を吐きます。
息を吸いながら、(上体を崩さずぶれないように)左足を半歩踏み出します。右の膝頭を超えないようにしましょう。このとき、かかとを床につけないようにしましょう。
そのまま左足を軸に身体が傾いたりすることがないように注意しながら垂直に立ち上がります。立ち上がり、右足が左足とそろう頃に両膝が伸びてかかとが床につき、息を吐きます。
2.すわり方
同じく坐射に必要な坐り方について説明します。
まず、立った姿勢から、息を吸いながら右足を後方に約半足(はんそく)分引き、ゆっくり息を吐きます。(足下を見ることができないので、最初は誰かに見てもらいながら練習するとよいですよ)
上体の姿勢を崩さないように、まっすぐな姿勢を保ったまま、息を吸いながら右足の膝が床に着くまで沈みます。垂直に腰を沈めてきたら両膝をそろえて跪坐の姿勢をとり、ゆっくりと息を吐きます。
3.歩き方
普段私たちが自然に歩くとき、重心が腰に乗って動き出すと、その後は腰よりも先に足を前に踏み出しています。
しかし、弓道の世界では、(イメージとして)上体と腰の位置が踏み出す足と協調して前に進む感じになります。
上体を楽にしつつ、呼吸に合わせて左足から右足へ(吸う吸う)左足から右足へ(吐く吐く)のリズムで進みます。「左(吸う)→右(吸う)→左(吐く)→右(吐く)」ですね。
歩行中は膝を曲げないよう、足の裏を見せないよう、足袋を滑らせるように歩くことを心がけましょう。
一般的に、2mの歩幅を男子は3歩半、女子は4歩半と言われていますが、身長にも差がありますから、目安と考えてよいでしょう。
なお、弓を持って歩く時には、末弭(うらはず:弓の先端)が床から10cmくらいの高さを保ったまま歩行できるように練習しておきましょう。
4.停止体の回り方
立ち姿のまま向きを変える場合も注意するのは、足だけが先行したり、身体をひねることがないようにすることです。動き出す足と同時に腰も回転させることを意識してください。腰が回るということは、上体もそれについて回ることになります。
直角(90度)に曲がるときは、足でT字をつくることを覚えましょう。
例えば、右に直角に向きを変えるのであれば、左足を右足のつま先側にかぶせるようにして、両足でT字を形作ります。そのときには、腰と上体も回転し始めていますので、その後右足を左足の横に平行になるようスライドして動かし両足をそろえるようにします。
気持ちが足下ばかりにいき、上体がぐらつかないように気をつけましょう。
5.歩行中の回り方
歩行中に向きを変える動作は、入場から退場までに行われる動きで、多くは90度だったり、45度だったりします。
歩く動作は、2の歩き方と変わりません。おそらく、90度に回るときには「L字を切る」という表現で指導されると思います。
目安の地点で左足を止め、止めた左足のかかとに引きつけた右足の先が触れるか触れないかの動きから、左足を追い越すことなく右に90度L字型に腰と同時に踏み出す動作のことをいいます。
大前(おおまえ)で入場すると、この曲がり方で右に曲がり、本座に向きを変えるときには、逆に左足から90度回転して左に向きを変えます。
2立目以降は、45度で右に向きを変えます。
目安の地点で左足を止め、止めた左足のかかとに引きつけた右足の先が触れるか触れないかの動きから、右斜め45度前方に足を踏み出し、続いて左足を右足と平行に前に進め、再び右足を先ほどと同じ動きで、右斜め45度前方に足を踏み出すと(45度+45度=)90度の回転が終わります。
6.坐しての回り方(開き足)
坐射で射位に入り、的方向から脇正面(審査員がいる方向)に向きを変えるときの動きになります。
跪坐の姿勢から息を吸い膝立ちの姿勢になり息を吐きます。
(この膝立ちの姿勢になるときに、膝と膝を近づけながら絞るように腰を切ると綺麗に決まります)
右に回るときには、息を吸いながら左膝を右膝の前にかぶせるように開き足を行います。左足に並ぶように右足を回転しつつ腰を下ろしてきてゆっくり息を吐きます。
回転の終了と腰を下ろしきるタイミングは同時です。
どちらかの動作が先に終わることがないように気をつけましょう。
7.礼(坐礼・立礼)
礼は、形ばかりではなく、深い教養が動作に現れるように行うことが大切です。形だけの礼にならないようにしましょう。
坐礼と立礼がありますが、いずれも呼吸は「吸う→吐く→吸う」の三息(みいき)で行います。
坐礼は、指建礼・折手礼・拓手礼・双手礼・合手礼と進むにつれ、より深い礼となっています。
立礼も同様に、受礼者の身分によって上体を屈する角度および手の位置が変わります。
8.揖(ゆう)
揖とは、通常の立礼よりも浅い礼のことをいい、多くの場面で使うのでしっかり身につける必要があります。
立った姿勢での揖も坐しての揖も、上半身をおよそ10cmほど屈める程度の礼のことをいいます。浅い礼のため、7の礼と違い、「吸う→吐く」のリズムでおこないます。
首から上の頭だけがカクンと折れ曲がるのは、揖とはいわないので、上体全体で自然におこなえるように練習しましょう。
次回は、弓道の早気(はやけ)の治し方とその予防について記事にします。
最後まで、お付き合いいただきありがとうございました。